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陽炎の向こう側             浅井 キラリ

陽炎の向こう側   浅井 キラリ

この空の下で 4

見えない糸にひきよせられて


2、3日たった頃、川野から電話があった。

「来月からの出勤でお願いしたいのですが。部署は、調査部です。この間お話ししたとおり、研究員の補助的なお仕事をしていただくことになります。連休明けの週初めからと言うことで、5月8日の9時に私の所に来てください。」

「はい。わかりました。よろしくお願いいたします。」

「では。」

「失礼します。」

一応、社会の中に自分の居場所を確保した安心感があった。

「連休明けまで、ゆっくりしよっと。片付けものも終わらせてと。」

5月8日、彩子はベージュのスーツを着て出掛けた。

まず、人事の川野の所へ行き、働くことになっている調査部へ案内された。

そこで、部長に紹介され、部長から部内の職員に紹介された。

部長以下、40代の主任研究員が5人と20代、30代研究員が4人、女性の研究補助が8人いた。

女性5人は一つの机の島に固まって座っていた。他の3人は男性研究員と並んで座り、主任研究員はそれを囲むように座っていた。

部長は一番奥の席に座っていた。彩子も女性の机の島の出口に一番近いところに座ることになった。

仕事の内容は、男性研究員の補助で研究報告書の入力、資料の収集、計算などだった。

残業もそれほどなく、ハードな職場ではなかった。

仕事に馴れ、隣の部署の若い女性職員と友達になり、一緒にお昼や夜に食事に行ったり
ショッピングに行くようになった。

松本理彩22歳。

彩子より2歳年下で正職員だった。

すらりとした長身の理彩は、ロングヘアがとても似合っていた。

彼女は正職員だったので、同期からいろいろな情報が回ってくるようだった。

「彩ちゃん、今度9月に人事異動あるんだよ。ウチの部長どっか飛ばされるらしい。本庁に戻れないんだって。外れちゃったってことよね。」

「ふうん。大変なんだね。出世競争って言うの。最後まで上り詰める人って結局1人でしょう?」

「まぁ、そうだよね。私なんかの同期はまだ入り立てだからみんな仲良しって感じだけど、何年かするとギスギスしてくるのかな。定年まで競争かぁ。長い競争だね。私たちほとんど他人事。ふふ・・。」

「今度の金曜日、スペイン料理でも食べに行かない?」

「行きたい。行きたい。行こうよ。」


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